「お入口」は美化語なのか?

先週は、「お入口」は誰も立てておらず、主体尊重、もしくは受け手尊重の使い方としては間違っているというところまでを結論づけました。デパートの入口に書いてあったということから考えてお客さまを立てる目的があると思われますが、その目的は残念ながら果たせていません。


そして誰も立てない「お」の使い方を美化語といいますが、ならば美化語としては正しいのかをこれから見てまいりましょう。

美化語としての「お入口」を検証する

敬語それ自体もイレギュラーケースが非常に多く存在しますが、それに輪をかけて美化語には、文化・風習によりバリエーションの幅が広く、イレギュラーケースだらけです。(よろしければ、以前のブログもご参照ください。)

実際、「私が美化語として使いたいんだからいいじゃないの!」と言われたら「どうぞ」としか言えません。

 

それでも自分が美化語を使うとき、ルールがなければただの「何でもあり」になってしまい、「お」はただの雑音になってしまいます。したがって立ち戻る基本を知っておくのは良いことではないでしょうか。今回のケースで言うなら、以下の二つです。

①複合語に「お」は付かない

②独り言で言わない美化語は使わない

それぞれについて説明していきます。

①複合語に「お」は付かない

そもそも先週のブログに書いたように、質問者は「お入口」という言葉を見て違和感を覚えたので私に問い合わせてきました。

もしこれが、化粧品売り場で売り子から「まぁお客様、とってもかわいらしいお口をしていらっしゃいますね」と言われたら、過剰と感じたかもしれませんが、間違っているとは感じなかったことでしょう。(この場合は主体尊重の使い方です)

 

「お」は接頭”辞”というように、1つの言葉につきます。

「お花」とは言えても「お花束」とは言わないように、また「お宝」とは言えても「お宝箱」とは言えないように、複合語には基本として付きません。

②独り言で言わない美化語は使わない

真珠のネックレスをしている人に「あら、素敵なおパール」と言えば「これを見てオパールと勘違いするなんて、真珠を見たことないのかしら」と思われます。
冷酒が欲しかったのに「おヒヤ」なんて言えば、氷水が出てきます。

 

主体尊重と受け手尊重は誰を立てたいのかを意識し、その立てたい人を立てる敬語を選べているかが重要ですし、誰も立てない美化語は、過剰にならないように注意する必要があります。ただし、先にも述べたように、言葉にはイレギュラーケースが多々あります。複合語に「お」が付く例も同様です。

 

ではどうするか。
独り言で使わない言葉は、人前でも使わないでください。
「お玄関」と独り言でも言う人は、それが人前でも職場でも使ってください。「お入口」と独り言でも言わない人は、それが人前でも職場でも使わないでください。

 

ただもし、「お玄関」って言うのは私だけかしらと気づいたなら、公の場やかしこまった場では控えてみてください。そして逆に、自分が独り言でも言わない美化語を周りが使っているときにも、周囲と軋轢が生じない程度なら控えてください。

 

これが、美化語の異常繁殖を防ぐ方法です。

 

この美化語の異常繁殖の経緯について、「お入口」を使ってもう少し考察していこうと思います。

 

それでは、また。