先週は、表題のフレーズがたまたま入ったコンビニでトイレを利用する客に対するフレーズとしては、不適切である旨を書きました。(使うメンバーが限られていて、実際にいつもきれいに使われているならなんの問題もない適切な文章です)
その後、このフレーズについて調べてみると、実は前提挿入という心理学を活用したテクニックの典型例としてよく使われるもののようです。
生成AIの説明によると、前提挿入とは、「相手に何かを伝える際に、さりげなく前提となる情報を組み込むこと」だそうです。つまりこのフレーズを読むと、「みんなはいつもきれいに使っているんだ」という前提を受け入れてしまい、だったら自分もきれいに使おうと考えるようになるということです。
また、「これはナッジだ」と言う人もいるかもしれません。これも生成AIの説明によると「軽くつつく、行動をそっと後押しする」という意味を元とし、「社会科学の一分野で、人々の行動や意思決定を微妙に誘導することで、特定の行動を促す手法」のことだそうです。
それは敬意か
これは前提挿入という心理学的テクニックである。
これはナッジという特定の行動を促す手法のことである。
それは、確かにそうかもしれません。
しかし、そこに敬意はあるのでしょうか。
たとえば、夢や目標がはっきりしていたほうが費用を払う動機づけになりますし、努力もしやすいでしょう。それは誰にとっても真実かもしれません。
しかし、問題なのはそのテクニックを使う側の動機です。
たとえば、理学療法士が、脳梗塞で歩行困難になった患者に対し「歩けるようになったら、どこへ行きたいですか?」「それはお孫さんと行ったら楽しいでしょうねぇ」「娘さんの手をとってバージンロードを一緒に歩きましょうよ」と励ますのと、ネットワークビジネスの勧誘員が「ねぇ、毎月100万円が何にもしないでも入ってくるとしたら、何したい?」「娘さんを大学にいれてあげたいでしょう。だったら、今のあなたのお給料じゃ行かせてあげられないんじゃないの?」と付け込んでくるのでは、同じ心理的スキルを使っているかもしれませんが、動機は真逆です。
翻って、「キレイに使っていただき、ありがとうございます」という文言を選んだ動機はなんでしょうか。
「キレイに使ってください」と言って「客に命令するとは何事ぞ」と怒られるのが嫌だから、このフレーズを使ったら汚されることが減ると聞いたから、他の店でも使っているから、本部からこれを使うように送られてきたたプレートを貼っただけ……。
それは、そうかもしれません。しかし、それらは客のためでしょうか。この文章を読むと、客に向かって書いてあるにも関わらず、客と向き合いたくないのではないかと思わせられます。(繰り返しますが、このトイレがピカピカなら別ですよ!)
敬意が先
もちろん、このフレーズ自体は目くじらを立てるほどのことではありません。このフレーズを使ったら失礼極まりない人であると思っているわけでもありません。そもそも状況によっては適切なフレーズでもあります。
ただ、「敬語を使うことが敬意ではなく、敬意を表す手段として敬語がある」。この順序を大切にしてほしいと思います。
それでは、また。