前回『「良いお年」の「お」は誰を立てているのか?』というテーマで記事にしたところ、読者の方から、「お」年玉や「お」年頃はどうなのかとご質問を頂戴しました。
そこで、今回はこの二つの言葉を取り上げます。
「お年玉」の「お」は、相手によって使い分けるか
恥ずかしながら、お年玉といえば正月にもらえるお小遣いというぐらいの認識しかなく、ご質問を頂戴して初めて調べてみました。
まず、「年玉」という言葉があり、「ねんぎょく」とも読むこと。
そして、元々は新年を祝ってする贈物全般を指していたものが、やがて子どもや奉公人に与える金品の意味で使われるようになったこと。
他にも、新年に儀礼食として食べる丸餅を年玉として与える文化があり、まだ残っている地域もある、などなど。
そもそもご質問を頂いたとき、「お」のない「年玉」という言葉を聞いたことがなく、勉強になりました。
さて、上記より「年玉」という語が元からあり、目上が目下にやる小遣いという意味に限定して使われるのが「お年玉」と考えてよさそうです。このように、誰も立てず、英語でいうところのダブルクォーテーションのように、特別な言葉の使い方をしますよという印として使われる「お」は美化語です。
念のため、受け手尊重や主体尊重でないことを確認しておきましょう。
目上が目下にやるということは、もらう側(受け手)を立てる「お」は付きません。やる側(主体)である自分の行為に「お」を付けるのもおかしな話です。
受け手だの主体だの分かりづらいという人のために、具体例でも説明しておきましょう。もし、自分が子どもにやるときには「年玉をお前にやろう」と「お」を付けずに言い、子どもがそれを話すときには「お母さん、お父さんからお年玉を頂きました。私が父親になったら、お父さんのように子どもに年玉をやりたいと思います」と目上の人の行為かどうかによって「お」を付けるか付けないかを選んで話すなら主体尊重です。が、実際にはそんな使い方はされていませんよね。
よって、この場合の「お」に人を立てる意味はなく、「お年玉」は美化語です。
「お年頃」はどうか
では、同じように「お年頃」についても考えてみましょう。
年頃とは、年の頃というだけの意味ですから、「あの人は、たぶん私と同じ年頃だ」という「お」を付けない言い方は、「あの人」が30代でも70代でも使えます。
しかし、「お年頃」といえば結婚適齢期や異性を気にし始めるなど、恋愛を話の意図に含めた文脈に限定して使われます。しかも、それが愛情に基づくものであれ、多少のからかいを含めて使われます。したがって、社長の娘のことを評して社長に向かって「お年頃でいらっしゃいますよね」というのは適切とはいえません。ということは、この「お」は人を立ててはいないということです。
よって「お年頃」は美化語です。
それでは、また。