先週は、「ご紹介いただいた方」と「ご紹介された方」という二つの言葉を使っていても、どちらが紹介した人でどちらが紹介された人か分からないという話をしました。
「ご紹介いただいた方」は使い方が間違っているケースでしたが、もう一方の「ご紹介された方」はそもそも正しい敬語の形ではありません。このような、敬語っぽいけれどもおかしな言葉遣いを「偽敬語」としてご紹介していこうと思います。
主体尊重と受け手尊重のMIX敬語
二重敬語なら知っているがMIX敬語なんて聞いたことがないという方が多いと思います。MIX敬語とは私の造語です。
二重敬語は一つの言葉を重ねて敬語に変換してしまうこと、言ってみれば既に敬語であるものを更に敬語に変換してしまうことですが、これは一方向への変換を想定しています。しかしMIX敬語では、立てる方向性が異なる変換を組み合わせて行ってしまうのです。
このMIX敬語については、以前別の言葉で取り上げました。(この頃はまだ「主体尊重」「受け手尊重」という言葉をあまり使わず、「尊敬語」「謙譲語」という言葉を使っていたんですね)
今回の「ご紹介された」もこのMIX敬語に該当します。
この「ご〇〇された」は「ご確認された内容に間違いはございませんか?」や、「ご送信されたのは何時ごろでしょうか?」などと(間違って)使われます。つまり、確認した人や送信した人(=主体)を立てるつもりで使われています。
今回は、受身形を表現したかったということで「紹介された」が先にあり、お客さまだから「ご」を付けたという順番かもしれませんが、「ご」は単語にしか付きません。「紹介され/た」は単語ではありません。
※分かりやすいよう「/」を単語と単語の切れ目に入れました(以下同)
いやいや「ご紹介した」というじゃないか、それを受け身にして「ご紹介された」だよ、というかもしれませんが、残念ながらそれも通用しません。「ご紹介する」は正しい敬語であり、その過去形はたしかに「ご紹介し/た」で間違いありませんが、それは紹介した客を立てない敬語だからです。客に告知するためのポスターにおいて、紹介した客を立てませんよとあえて強調する敬語がふさわしいでしょうか。
受身は基本的に敬語を使わない
加えて、受身形(ここで言えば「紹介された」)が動作主体を立てる敬語として存在するため、敬語の使い方の基本としては、受け身を敬語にするのは避けたほうが無難です。もし「紹介された」という受け身を文法的に正しく主体尊重の敬語にすると「ご紹介されになった」というおかしな表現になってしまいます。
このポスターを書いた方も、きっと悩んだんだろうとは思いますが、周りに正しい敬語を教えてくれる人がいなかったのでしょうね。
残念です。
それでは、また。