『ご利用しやすい』はあべこべ敬語

一見敬語のように見えて、実は文法的に間違っている言葉を「偽敬語」と命名し、正しくはどう言うのかを解説しています。

今週の偽敬語はこちらです。

こちらは、駅に掲示されたお知らせです。写真から判断するに、乗降口の段差をなくし、ホームとの空間を狭めるよう改善したということですね。

「お使いのお客さま」は敬語の使い方として問題ありません。
問題は「ご利用しやすいように」なのですが、別に気にならないという方も多いのではないでしょうか。

「ご〇〇する」は「〇〇する」人を立てない敬語(受け手尊重)

さて、この敬語の持つ意味から、説明していきましょう。

動詞を「ご」と「する」で挟んだ「ご〇〇する」は、「〇〇する」人を立てない」敬語です。(「お」と「する」で挟んだ「お〇〇する」も同じです)

 

「立てない」というと分かりづらいのですが、言葉を換えると、「行為者の側が恩恵を受け責任を持つ」という意味です。

例えば、「お借りする」と言った場合、恩恵を受けていることの謝意に加え、「借りた方に責任がある」(この場合、責任を持って管理する)という意味を追加しています。

 

それが、「お貸しする」であれば、通常なら借りる側に恩恵があるので「貸してやる」立場になるはずですが、この敬語(受け手尊重)を使うことによって、「間違っても貸してやるのではない。貸す側が望んで行うことであり、その責任も貸した側にある」という意味です。つまり、この場合は「借りた側(=受け手)が無くそうと汚そうと、その責任を問わない」ということです。

ひるがえって「ご利用する」を見る

「ご利用しやすい」は「ご利用する」を形容詞化したものなので、ここからは動詞の「ご利用する」について説明していきます。

 

上記で見てきたように、「ご利用する」は「利用する人」を立てない敬語(受け手尊重)であり、その意味するところは「利用してやるのではない。利用する側が望んで行うことであり、その責任も利用した側にある」というものです。

本来であれば客である利用者を立てるべきなのに、これでは適切な敬語の使い方とはいえません。この敬語が表す人間関係は「鉄道側が上、客が下」になっているので、「あべこべ敬語」と銘打ったわけです。

 

客を立てる敬語を選ぶなら、「ご」と「になる」で動詞(※名詞化された動詞)を挟んだ「ご利用になる」とするのがいいでしょう。形容詞化した場合は「ご利用になりやすい」です。

 

それではまた。