この本の著者は金谷武洋。カナダで25年日本語を教え続けた先生です。
先週は他動詞のSVO構文を基本とする言語が二元論と支配につながるという著者の説を受けて、敬語はそれを否定すると述べました。
自己主張には自己主張を、敬語には共感を
それでは、英語では平和になれないのでしょうか。私はそんなことはないとも思っています。
もし、相手を単に支配することが目的なら、こちらが自己主張をし、相手は自己主張をしないのが最適です。しかし、英語圏では小さい頃から自分の意見を言う場が与えられ、ディベートの訓練を受けると聞きます。自己主張するための言語体系であれば、その訓練を誰もが受けることで、対等に話し合うことができるでしょう。少なくともそれを目指しているのではないでしょうか。
一方で日本語のような主語や目的語を言わない言語には、共感能力を鍛えることが不可欠です。他者に共感することなしに他者からの共感を受ける一方で育つなら、どれだけいびつな人間ができあがることでしょう。想像するだに恐ろしいことです。
そして、相手の顔色をうかがう卑屈さと違って、共感とは相手の見ているものを同じ見方で見ようとする主体的な行為です。しかも、考え方も経験も異なる相手が次々に現れてきます。その一人一人に共感するのですから、一つの考えに流されることはなく、かえって相対的に物事を見る力を養うことでしょう。
もっと日本語を!
著者は最後に以下のように述べています。
日本語の脱英文法を大胆に進めるべきです。英語公用語化などという愚かで不毛な議論はもうやめて、政府は文部科学省を通じ、日本語を正しい形で世界と日本国内で教えられる方向で大胆に舵を切ってほしいと心から思います。それが、武器や資源などに比べていかに効果的な国家戦略であるかは、言うまでもないことです。(p.227~228)
※日本語の脱英文法という言葉だけを抜き出しても分かりづらいかと思いますので、少し補足すると、例えば以下のようなものを指します。
・「日本語は主語が省略できる」という説明は、主語が絶対必要な英文法を基準にしているから「省略」という言葉になるのである。日本語を基準にするなら「英語には不要な主語であっても付けなければならない」となるはずではないか。
他にも、「全然~でない」と使うように「全然」という言葉は否定につながらなければならないと思っている人もいるかもしれませんが、これも「not at all」の訳語として「全然~でない」を当てたためにそのように広まってしまいましたが、本来は別に否定形としかつながらないという言葉ではなかったようです。
これまで4回に分けて『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』を取り上げました。日々の生活の中で、日本語を大事にしていきたいものです。
最後に、著者が挙げる日本語の10の特徴をご紹介して終わりたいと思います。
日本語の10の特徴
一つ一つには詳しく触れませんが、項目を見るだけでなんとなく伝わるかと思います。
(その1):文法が簡単
(その2):発音が簡単
(その3):基本文はたったの3つ(動詞文、形容詞文、名詞文)
(その4):日本語に主語はいらない
(その5):動詞文は動詞で終わる
(その6):形容詞はそれだけで文
(その7):「は」が示す「主題」は相手と共感するもの
(その8):日本語は人間より自然に注目する
(その9):日本語は「て・に・を・は」が支えている
(その10):外来語を柔軟に受け入れる
文法や発音が簡単で、語順も柔軟。中国語にポルトガル語に英語など、どれだけ外来語を受け入れても日本語として揺るがない。そんな日本語は、多様性を受け入れるのに最適な言語です。
著者の主張にご興味のある方は、ぜひ本を手に取ってお読みくださいませ。
それでは、また。