『猫語の教科書』に学ぶ敬語のエッセンス①〜所有者敬語

世にも賢い猫が、なんとタイプライターを駆使して原稿を仕上げ、人間の家の乗っ取り方を指南する『猫語の教科書』。

猫好きにはたまらない本でしょうけれど、それだけでなく、実際に読んでみると驚くことに敬語のエッセンスが散りばめられていました。

なるほど猫があれほどに人間を魅了してやまないのは、見た目の可愛さに甘んじることなく、ここぞというときの敬意を十分に踏まえているからなのですね。

 

敬語は人を支配するためのものではありませんが、人間をいとも簡単に支配してしまう猫から学ぶ敬語のエッセンス、1回目です。


所有者敬語

この本では、お気に入りの椅子を自分のものにする方法についても説明されています。(人のものを自分のものにするのが所有者敬語ではありませんよ!)

人間の不思議な考え方を逆手に取って、ご主人を椅子から追い払うことができるのです。(この「不思議な考え方」こそが所有者敬語です)

これを猫がどのように見ているのか、読んでみましょう。


猫がご主人を椅子から追い払ったという事実は、ご主人が立派だということにおきかわります。なぜなら彼の猫は、ご近所のどの猫よりもかしこい、それはつまり飼い主がすぐれているという事実の反映にほかならない p.68


彼の所有物である猫の価値を高めることで、所有者である彼を高める。これが所有者敬語です。

 

敬語というと、「おっしゃる」とか「させていただく」のようなある特定の言葉の数々を指すと思われるかもしれませんね。そうすると、この引用文のどこに敬語が含まれているのかと戸惑われるのではないでしょうか。
しかし敬語とは、敬意を言葉として表現したものです。あなたが敬語と思っていらっしゃる一つひとつの言葉には、意味があります。そして、それらは、口先で終わるものではなく、行為としても表現されます。

 

例えば「ありがとう」という言葉を言ったとしても、行為からは全く感謝の気持ちが汲み取れなかったとしたら、この人は「ありがとう」という言葉(の意味)を知らない奴だと言われますよね。それと同じです。

行為としての所有者敬語の例

例えば、子どもを褒められて嬉しくない親はいません。そこで、目上の人が子どもを連れていたなら、まずは子どもを褒めるというのが定石です。小さな子どもなら「賢そうなお子さんですね~」とか。ある程度大きな子どもなら「立派なお子さんですね~」とか。これが社長のご子息ともなれば、高校入学、大学合格の都度、山のようにプレゼントが届きます。その多くは、子ども自身が会ったこともない部下や取引先からです。(この子どもが、自分に向けられたものの多くが所有者敬語であることを理解しないまま大人になってしまったら……、ちょっと想像したくないですね!)

 

他にも、このような行為は頻繁に目にします。例えば高級レストランに行けば、あなたのコートやカバンをそれはそれは丁寧に預かってくれるでしょう。敬意は人に払うものです。では、なぜ物にしかすぎないそれらを丁寧に扱うかといえば、その行為を通して、所有者であるあなたへの敬意を表すためにほかなりません。

 

ビジネスでも同じです。取引先の社長に対して、従業員の質の高さを伝えれば、それは社長を立てることになります。

敬意を払われるためにすべきこと

お世辞ではなく本当に敬意を払われるためには、たとえプレゼントの宛先には自分の名前が書いてあったとしても実際の贈り先は親である社長であり、自分はそれにふさわしい行動をしなければならないと理解する子どもに育ってこそでしょう。

また、取引先が従業員の質を褒めてくれるだけでなく、客が口々に褒めるような従業員教育をすること、それが社長のすべきことです。

 

猫もこう書いています。


けっして、けっして、けっして、恥ずかしい姿やみっともないかっこうのところを見られて笑いものになるなんてことのないように。一度笑いものになると、もとの地位をとりもどすのに何日もかかります。(中略)猫は自分のからだとその動きをいつも完璧にコントロールしていなくてはいけません。(中略)もし猫がばかにされたら、それは飼い主の人間がばかにされるのと同じです。p.102~103


従業員が皆こんな意識で働いてくれていたら、雇用主はどれほどいいでしょう。

 

人に対して所有者敬語を適切に使うとともに、人から受けた所有者敬語を敬語であると理解したうえで謙虚に自らを高めていく、この両面ができてこそ、所有者敬語を使いこなしていると言えるのではないでしょうか。

 

次回は敬語を使ううえで前提となる枠組み(建前)を受け入れる重要性について、猫から学びましょう。

それでは、また。