先週は、「お召し上がれます」という敬語は間違っていますよ、という話をしました。
このような、敬語っぽいけれどもおかしな言葉遣いを「偽敬語」としてご紹介してまいります。
そして、今回見つけた偽敬語がこちら。
これも、実はよく見掛ける偽敬語です。
前回の「お召し上がれます」同様、何が間違いかと言えば、単純に「お」が余計です。つまりこれも、付けてはいけない「お」による蛇足敬語なのです。
※蛇足敬語とは私の造語です。蛇足は、なくてもいいものという程度の意味で使われます。しかしこの言葉の由来となった故事では、せっかく描き上げた蛇の絵に足を書き足してしまったためにその絵は蛇として認められなかったという話です。つまり、せっかく正しい敬語であっても、そこに付かないはずの「お」を付けてしまっては敬語の体をなさなくなってしまいますよ、という意味を込めて、蛇足敬語と名付けました。
主体を立てる「お」は動詞には付かない
表題の「お召し上がり方」について、「方」とは、動詞の連用形に付くことで、方法、手順、などの意味を示す派生語を作ります。
つまり、ここでの「召し上がり」は動詞です。
ということは、前回同様、主体を立てる「お」は動詞には付かないのですから、「お召し上がり方」は偽敬語です。
誰も立てない名詞に、主体を立てる「お」は付かない
いや、そうは言われても、ピンと来ないなぁという人のために、別の例を挙げましょう。
「召し上がる」という動詞は主体を立てる特定形です。同じ種類の敬語としては、「おっしゃる」「なさる」などがあります。この「おっしゃる」「なさる」に「方」をくっつけてみます。
〇「おっしゃり方(おっしゃい方)」〇
〇「なさり方(なさい方)」〇
いかがですか?
普段使わないのでかなり敬度は高くなりますが、「このようなおっしゃり方をなさるとよろしいかと存じます」「社長のなさり方ですから私たちは従いましょう」のような使い方に問題はありません。
ただし、ここで主体を立てているのは「おっしゃる」「なさる」という動詞であり、「方」という名詞ではないということに注意が必要です。
(「お」はあくまで単語に付くということを忘れないでください。言葉には例外が多くあるので本質を見失いがちですが、本則は「派生語は敬語にしない」です。)
ではこの、正しい「おっしゃり方」「なさり方」に「お」を足してみましょう。
✖✖✖「おおっしゃり方」✖✖✖
✖✖✖「おなさり方」✖✖✖
文法的には全くこれと同じ構造の言葉が「お召し上がり方」です。
更に言えば、「方」に連なる言葉が敬語でなくても構いません。動詞に「方」を付けた名詞に「お」を付けても、決して主体を立てる敬語にはならないということをご覧に入れましょう。
✖✖✖「お話し方」✖✖✖
✖✖✖「おやり方」✖✖✖
いかがでしょうか。主体を立てる「お」は誰も立てることのできない名詞には付かないということをご納得いただけたでしょうか。
このパッケージを作った人も、きっとなにか引っ掛かるものがあったろうとは思います。また、このパッケージに限らず「お召し上がり方」は散見されますので、これが正しい敬語だと思っている人も多いかもしれません。せっかくおいしそうな説明も、間違った敬語を使っては品位が下がるというもの。残念です。
それでは、また。